惜しまないでいられるか
山あいの町の地下千二百四十メートルから、三十年間、何も観測されていない。電磁波も、音波も、振動も、ニュートリノも。 それでも半径四・二キロの中にいる人間の〇・〇三パーセントに、外から与えられていない文が生じる。平均二十七文字。命令形が多く、日時と場所が具体的にある。従えば何かが起きる確率が有意に高い。ただし何が防がれたのかは、一生知らされない。従わなければ、二度と受け取れない。四百十二例のうち、離脱した百八十七人が再開した例は無い。 代償は、固有名詞の記憶をひとつ失うこと。順序に法則は見つかっていない。 中学の理科講師・室生亨に四つ目の文が来る。「九月三日午後六時二十分、蓼科慎司を病院へ運べ」。七年前、亨の妹を轢いた男の名前だった。 現代SF×旧約聖書。全十八章・約九万八千字。
しゅう1