午前二時のエレベーター
十二階建てのマンションで、午前二時にだけ現れる十三階。そこには、佐伯直人が失ったはずの人と、選ばなかった人生があった。階を訪ねるたび、記憶も名前も少しずつ揺らいでいく。黒江 遼による、喪失と選択をめぐる幻想ミステリー・完結。
土岐フウマ十二階建てのマンションで、午前二時にだけ現れる十三階。そこには、佐伯直人が失ったはずの人と、選ばなかった人生があった。階を訪ねるたび、記憶も名前も少しずつ揺らいでいく。黒江 遼による、喪失と選択をめぐる幻想ミステリー・完結。
土岐フウマ遺品整理の仕事で三谷修司が見つけたのは、毎年同じ日に、同じ道路を撮り続けた二十八枚の写真だった。最後の一枚の日付は、持ち主が亡くなった翌日。裏に残された「一人足りない」の一文が、二十八年前の死亡事故と消えた現金を結びつけていく。完結ミステリー。
砥峰ガク家賃保証会社で督促を担当する榊美咲。二十五年前に亡くなった契約者の家賃が、今も払い続けられていた。滞納案件を追う仕事の中で、他人の事情と自分の壊れた家族に向き合っていく、完結した現代ミステリー。
汐庭つむぎ最後の解体報酬で、六年乗った曳船が自分のものになる。 避難を急ぐ宇宙港で働く鹿瀬マキは、無人とされた退役艦の鋼板から、人がたたく音を聞く。閉ざされた糧食庫にいたのは、三百十二人。残る出口は小さな配膳筒だけ。救出の手順を探す間にも、船団の出発時刻は迫っていた。 切断機、鋼索、食卓。現場にあるものと、そこで働く人の腕で道を作る、全七章の完結SFサスペンス。
久砥ユキ十一月二日、十七時。吹雪で、標高千八百メートルの避難小屋に閉じ込められた。 靴が六つ。カップが六つ。寝床は六人分。 私は「一人で来た」と言った。ガイドは「資格がある」と言った。夫婦は「夫婦だ」と言った。大学生は「合宿で迷った」と言った。老人は、本当のことしか言わない。 朝までに、嘘が一つずつ剥がれる。 剥がれた人から、私を見る。 六つ目の靴は、誰のものか。
しゅう1毎週金曜の十七時、週報が届く。 送り主は、去年の十一月に死んだ同僚、沢井。 一行目は、いつも同じ。「今週は、以上です」 翌週、二行目が増える。「発注書の件、確認中です」 三行目には、会社の名前があった。 転送できない。コピーできない。写真にも写らない。このメールは、私にしか読めない。 十五行目が届く前に、私は、沢井が何を見つけたのかを知る。
しゅう1毎晩0時からの雑談配信。視聴者は、いつもの常連十二人。 視聴者数の表示は、なぜか十三。 午前一時十四分、コメント欄から、常連の名前が一つ、消えた。退室ではない。最初からいなかったことになった。翌朝、その人のアカウントも、なかった。 次の夜も、その次の夜も、一人ずつ。同僚は言う。「その十二人、私、一人も知らない」 配信を休んだ夜は、二人消えた。だから、止められない。 最後に残る一人は、毎晩「おやすみ」と打つ、最古参のハル。 作:黒川レン
しゅう1午前二時十四分。国道沿いのコンビニに、毎晩、同じ客が来る。 灰色のジャンパーの老人は、牛乳を一本、小銭ぴったりで買って、何も言わずに帰る。三年間、毎晩。 夜勤の篠崎亮は、数えるのが得意で、人と話すのが苦手だ。だから最初は、数えるだけだった。二時十四分。小銭の枚数。小銭袋の残り。 数えているうちに、袋が空になる日と、その牛乳が廃番になる日が、同じ日だとわかる。 どちらも、亮にはどうにもできない。どうにもできないことを、亮は、店の三人で、どうにかしようとする。
しゅう1【長編小説/制度ミステリー・異世界】契約で他人の痛みを肩代わりする〈代痛人〉のネイは、胆石発作と書かれた仕事で、背中を貫く規則正しい四回の衝撃を受ける。病名と痛みが合わない。同じ形の痛みが同じ時刻に複数の代痛人へ分割されていると気づいたとき、同僚の少年が契約中に死に、その帳簿が即日回収された。記録されなかった死は、存在しなかったことになる。痛みの帳簿は、消された人間の唯一の記録だった。全二十章。
しゅう1【短編小説/民俗幻想ミステリー】水守村の葬列は橋の手前で引き返す。赴任した医師・澪は、死亡診断したはずの男が翌朝診療所へ来たことで、自分の誤診を疑う。男には双子がいた。だが説明がついた夜、別の患者が橋の上で息を引き取る。医学で割り切れるものと、川に残るものを分けない三夜の物語。
月瀬 灯【短編小説/青春ミステリー】廃校前の文化祭で展示する制服が、毎夜一着ずつ別のサイズへ縫い直される。被服部の私は、卒業名簿に載らなかった生徒と、本人の同意なく残された服へ辿り着く。記憶することは所有することではない。最後の夏服に針を入れる手が、誰のための展示かを問い直す。
月瀬 灯【短編小説/心理ミステリー】雪の朝、名家の離れから仏像が消えた。庭に足跡はない。七十四歳の庭師・源造は、温水管と枝を伝えば雪へ触れずに渡れると知っていた。疑いは孫へ向くが、それこそ源造が望んだ筋書きだった。家も庭も家族も自分の手で整えたい男が、凍った池の前で制御を失う。
月瀬 灯【短編小説/技術ミステリー】地方FMで毎晩、同じ時刻に十一秒の無音が入る。その無音を聞いたリスナーだけが、まだ起きていない事故を通報してくる。音響担当の環は送信遅延と開いたままのマイクを調べ、誰かの犯罪と自分の耳鳴りを同時に追う。塔から音が消えたあとも、十一秒だけは彼女の内側に残る。
月瀬 灯【短編小説/団地ミステリー】青葉台団地では、なくした物が三日以内に戻ってくる。返された品には黄色い紙の王冠。六年生の私は〈踊り場の女王〉を追うが、母の財布だけは帰ってこない。離婚も家計もよく分からない子どもの目が、大人の秘密と優しい嘘を見抜いていく。王冠は最後まで、つぶさない。
月瀬 灯【短編小説/犯罪ミステリー】身寄りのない老人の火葬日、乾いた毛の犬が裏口へ現れる。赤い首輪の鍵が結ぶのは、数十年前の現金輸送車強盗と、老人が払い続けた動物病院の領収書。火葬技師の私は秘密を遺族へ返すべきか迷い、最後に鍵を自分の靴へ隠す。正しさより重いものを残す一日。
月瀬 灯【中編小説/航海冒険ミステリー】遭難から生還した航海士ユナは、自分の故郷がすべての海図から消えていると知る。彼女が救助隊へ送った座標も、実は故郷ではなかった。古い船主と元密輸人を乗せて再び海へ出たユナが見つけるのは、島ではなく移動し続ける船団。故郷へ帰るためについた嘘が、航路を開く。
月瀬 灯【中編小説/家族ミステリー】集合住宅を撮る写真家・真帆は、十五年間空室のはずの四〇七号室で濡れた食器を見つける。そこには、失踪した姉のための席が用意されていた。姉は死んだのか、それとも生きて帰れないのか。父の支配と善意の家族ごっこが絡む部屋で、真帆は誰の許可も得ずに作られた「帰る場所」を撮る。
月瀬 灯【中編小説/密室心理サスペンス】深夜の研修施設へ集められた七人の最終候補者。午前四時、面接官は十年前の工場火災について一人ずつ質問を始める。通信は途絶え、履歴書の名前と記憶が食い違っていく。これは採用試験なのか、復讐なのか。夜明けまでに選ばれるのは社員ではなく、火災を語る役目だった。
月瀬 灯【長編小説/法廷幻想ミステリー】鏡が、その部屋で最後につかれた嘘を四秒だけ映す町。殺人現場の鏡には被告人ではない影が残ったが、法廷は鏡像を証拠と認めない。勝つためなら鏡さえ出し抜けると考えた弁護士は、証言の順番を組み直すほど、自分も事件の観客ではなかったと知る。
月瀬 灯【長編小説/海洋幻想ミステリー】一年の大半が薄明に沈む北方港へ、十三年前に失踪した船が帰ってきた。乗員数は同じなのに船名だけが違い、船長は船室で死んでいる。港湾検査官リナは、港が他国から盗み続けた「昼」と、自分が黙認した航路へ行き着く。最後の十一分、彼女は港のすべての灯を消す。
月瀬 灯【長編小説/歴史ミステリー】飢饉後の山間藩で庄屋が殺され、現場には存在しない集落の年貢割付状が残された。寺の書役・千世は、検地帳と送り火の数から消された村を探す。しかし帳面の不正を追う彼女にも、真実のためには不要だった一行の偽書がある。十三番目の火が、名を奪われた者と書いた者の罪を照らす。
月瀬 灯【長編小説/近未来災害ミステリー】高潮のたび道路が運河へ変わる沿岸都市で、退去を拒む住民が相次いで転落死する。護岸技師の紗良が追う避難計画の欠陥は、彼女が敬愛した父の設計へ繋がっていた。迫る満潮のなか、父の名を守るか、生きている街を救うか。水際で家族の神話が崩れていく。
月瀬 灯【長編小説/山岳法廷ミステリー】十二年前の雪崩事故を再審理するため、元裁判員と関係者が冬山の観測所へ集められた。翌朝、当時の検察官が外から近づけない観測塔で死んでいる。弁護士・高瀬真琴は現在の密室と過去の評決を結ぶ録音に辿り着くが、それは彼女自身が隠してきた臆病さまで暴くものだった。
月瀬 灯