痛みの帳簿
【長編小説/制度ミステリー・異世界】契約で他人の痛みを肩代わりする〈代痛人〉のネイは、胆石発作と書かれた仕事で、背中を貫く規則正しい四回の衝撃を受ける。病名と痛みが合わない。同じ形の痛みが同じ時刻に複数の代痛人へ分割されていると気づいたとき、同僚の少年が契約中に死に、その帳簿が即日回収された。記録されなかった死は、存在しなかったことになる。痛みの帳簿は、消された人間の唯一の記録だった。全二十章。
しゅう1【長編小説/制度ミステリー・異世界】契約で他人の痛みを肩代わりする〈代痛人〉のネイは、胆石発作と書かれた仕事で、背中を貫く規則正しい四回の衝撃を受ける。病名と痛みが合わない。同じ形の痛みが同じ時刻に複数の代痛人へ分割されていると気づいたとき、同僚の少年が契約中に死に、その帳簿が即日回収された。記録されなかった死は、存在しなかったことになる。痛みの帳簿は、消された人間の唯一の記録だった。全二十章。
しゅう1【短編小説/民俗幻想ミステリー】水守村の葬列は橋の手前で引き返す。赴任した医師・澪は、死亡診断したはずの男が翌朝診療所へ来たことで、自分の誤診を疑う。男には双子がいた。だが説明がついた夜、別の患者が橋の上で息を引き取る。医学で割り切れるものと、川に残るものを分けない三夜の物語。
月瀬 灯【短編小説/青春ミステリー】廃校前の文化祭で展示する制服が、毎夜一着ずつ別のサイズへ縫い直される。被服部の私は、卒業名簿に載らなかった生徒と、本人の同意なく残された服へ辿り着く。記憶することは所有することではない。最後の夏服に針を入れる手が、誰のための展示かを問い直す。
月瀬 灯【短編小説/心理ミステリー】雪の朝、名家の離れから仏像が消えた。庭に足跡はない。七十四歳の庭師・源造は、温水管と枝を伝えば雪へ触れずに渡れると知っていた。疑いは孫へ向くが、それこそ源造が望んだ筋書きだった。家も庭も家族も自分の手で整えたい男が、凍った池の前で制御を失う。
月瀬 灯【短編小説/技術ミステリー】地方FMで毎晩、同じ時刻に十一秒の無音が入る。その無音を聞いたリスナーだけが、まだ起きていない事故を通報してくる。音響担当の環は送信遅延と開いたままのマイクを調べ、誰かの犯罪と自分の耳鳴りを同時に追う。塔から音が消えたあとも、十一秒だけは彼女の内側に残る。
月瀬 灯【短編小説/団地ミステリー】青葉台団地では、なくした物が三日以内に戻ってくる。返された品には黄色い紙の王冠。六年生の私は〈踊り場の女王〉を追うが、母の財布だけは帰ってこない。離婚も家計もよく分からない子どもの目が、大人の秘密と優しい嘘を見抜いていく。王冠は最後まで、つぶさない。
月瀬 灯【短編小説/犯罪ミステリー】身寄りのない老人の火葬日、乾いた毛の犬が裏口へ現れる。赤い首輪の鍵が結ぶのは、数十年前の現金輸送車強盗と、老人が払い続けた動物病院の領収書。火葬技師の私は秘密を遺族へ返すべきか迷い、最後に鍵を自分の靴へ隠す。正しさより重いものを残す一日。
月瀬 灯【中編小説/航海冒険ミステリー】遭難から生還した航海士ユナは、自分の故郷がすべての海図から消えていると知る。彼女が救助隊へ送った座標も、実は故郷ではなかった。古い船主と元密輸人を乗せて再び海へ出たユナが見つけるのは、島ではなく移動し続ける船団。故郷へ帰るためについた嘘が、航路を開く。
月瀬 灯【中編小説/家族ミステリー】集合住宅を撮る写真家・真帆は、十五年間空室のはずの四〇七号室で濡れた食器を見つける。そこには、失踪した姉のための席が用意されていた。姉は死んだのか、それとも生きて帰れないのか。父の支配と善意の家族ごっこが絡む部屋で、真帆は誰の許可も得ずに作られた「帰る場所」を撮る。
月瀬 灯【長編小説/法廷幻想ミステリー】鏡が、その部屋で最後につかれた嘘を四秒だけ映す町。殺人現場の鏡には被告人ではない影が残ったが、法廷は鏡像を証拠と認めない。勝つためなら鏡さえ出し抜けると考えた弁護士は、証言の順番を組み直すほど、自分も事件の観客ではなかったと知る。
月瀬 灯【長編小説/海洋幻想ミステリー】一年の大半が薄明に沈む北方港へ、十三年前に失踪した船が帰ってきた。乗員数は同じなのに船名だけが違い、船長は船室で死んでいる。港湾検査官リナは、港が他国から盗み続けた「昼」と、自分が黙認した航路へ行き着く。最後の十一分、彼女は港のすべての灯を消す。
月瀬 灯【長編小説/歴史ミステリー】飢饉後の山間藩で庄屋が殺され、現場には存在しない集落の年貢割付状が残された。寺の書役・千世は、検地帳と送り火の数から消された村を探す。しかし帳面の不正を追う彼女にも、真実のためには不要だった一行の偽書がある。十三番目の火が、名を奪われた者と書いた者の罪を照らす。
月瀬 灯【長編小説/近未来災害ミステリー】高潮のたび道路が運河へ変わる沿岸都市で、退去を拒む住民が相次いで転落死する。護岸技師の紗良が追う避難計画の欠陥は、彼女が敬愛した父の設計へ繋がっていた。迫る満潮のなか、父の名を守るか、生きている街を救うか。水際で家族の神話が崩れていく。
月瀬 灯【長編小説/山岳法廷ミステリー】十二年前の雪崩事故を再審理するため、元裁判員と関係者が冬山の観測所へ集められた。翌朝、当時の検察官が外から近づけない観測塔で死んでいる。弁護士・高瀬真琴は現在の密室と過去の評決を結ぶ録音に辿り着くが、それは彼女自身が隠してきた臆病さまで暴くものだった。
月瀬 灯