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「人情」の検索結果
5件 · 1 / 1ページ小説 · 2026-09-09 三十歳、はじめてのラーメン屋
三十歳。営業を七年やって、辞めて、カウンター八席のラーメン屋を開いた。 開店初日、二十三人。二日目、五人。 二十三人目の客は、向かいの不動産屋の事務の女の人だった。スープを半分残して、一言。「しょっぱい」 彼女は、月曜と木曜に来る。毎回、一言だけ言う。褒めたことは、一度もない。 師匠は電話で言う。「客が来ないのは、味じゃない」 客が来ない理由を、ノートに書き出した。一つずつ潰す。潰しても、すぐには増えない。 半年で、四十八人。そして、彼女が週二回しか来なかった理由。
しゅう1作品を開く →小説 · 2026-09-09 保育園の先生は、今日も嘘をつく
新卒の保育士・青木航平は、嘘が下手だ。指導係の柚木先生は、嘘の名人だ。 「お母さん、もうすぐ来るよ」「雨は午後にやむよ」「すぐ治るよ」 ゆり組の十八人は、それで泣きやむ。 一人だけ、泣きやまない子がいる。結城ハル、四歳。時計が読める。 「うそ」 ハルは、大人の嘘を全部数える。父親の嘘だけは、数えない。 嘘が嫌いな新人と、嘘のプロと、嘘が通じない子の、四月から七月まで。
しゅう1作品を開く →小説 · 2026-09-09 猫が一匹、町工場を救う
従業員四人の町工場。二代目の圭一が継いで二年、取引先は半分に減り、八月末に八百万の返済が迫っている。 五月、旋盤の上に、灰色の猫が寝ていた。左耳が欠けている。三回追い出しても戻ってくるので、職人頭が餌をやった。若い職人が「部長」と名前をつけた。 猫が苦手な圭一は、追い出さなかった。追い出せなかったのではなく、追い出さなかった。理由はまだわからない。 部長は、父の図面の上で寝る。銀行員のスーツに毛をつける。大口の客の車に乗り込む。雨の日に倉庫で鳴く。 そのたびに、なぜか、金と仕事が動く。 経理の由美は毎朝言う。「あと、六百万」
しゅう1作品を開く →小説 · 2026-09-09 引っ越し屋は、最後の荷物を運ばない
引っ越しの荷物には、二種類ある。運ぶ荷物と、運べない荷物だ。 運べない荷物とは、重いとか壊れやすいとかではない。持ち主が、手放さない荷物のことだ。 班長は言う。「荷物は、持ち主の手で、最後の一個を運ばせろ」 作業員四年目の二階堂駿は、現場ごとに、その「最後の一個」に出会う。位牌。結婚式のアルバム。押し入れのギター。娘の描いた絵。 そして四月、六年帰っていない実家の引っ越しが、自分の会社に入る。 父は見積書の備考欄に、九文字だけ書いていた。「本棚一つ、運ばない。自分で運ぶ」
しゅう1作品を開く →小説 · 2026-09-09 深夜のコンビニに、毎晩同じ客が来る
午前二時十四分。国道沿いのコンビニに、毎晩、同じ客が来る。 灰色のジャンパーの老人は、牛乳を一本、小銭ぴったりで買って、何も言わずに帰る。三年間、毎晩。 夜勤の篠崎亮は、数えるのが得意で、人と話すのが苦手だ。だから最初は、数えるだけだった。二時十四分。小銭の枚数。小銭袋の残り。 数えているうちに、袋が空になる日と、その牛乳が廃番になる日が、同じ日だとわかる。 どちらも、亮にはどうにもできない。どうにもできないことを、亮は、店の三人で、どうにかしようとする。
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