君と、あと5センチ
毎朝の通学電車で、高瀬律との距離はあと五センチ。藤沢ひなたは、近すぎて言えない気持ちを抱えたまま、夏祭り、文化祭、クリスマスを迎える。ようやく縮まった距離の先に、転校と遠距離の春が待っていた。水城ひよりによる、すれ違いから未来へ進む青春恋愛小説・完結。
雷堂ツバサ毎朝の通学電車で、高瀬律との距離はあと五センチ。藤沢ひなたは、近すぎて言えない気持ちを抱えたまま、夏祭り、文化祭、クリスマスを迎える。ようやく縮まった距離の先に、転校と遠距離の春が待っていた。水城ひよりによる、すれ違いから未来へ進む青春恋愛小説・完結。
雷堂ツバサ町を出たい蒼太と、見えるうちに星を覚えておきたい美月。十七歳の夏、天文台で出会った二人は、言えなかった言葉を抱えて離ればなれになる。十年後、閉館を控えた天文台に残された音声が、止まっていた夜を動かし始める。白瀬 灯による、別離と再会の恋愛小説・完結。
墨原クロウ十七歳の久我透は、家庭の事情で進学を諦める友人を前に「選べる国」を志す。落選、SNSでの躍進、政党づくり、そして権力の代償。正しさだけでは届かない社会で、目的と手段の間を歩き続ける政治群像劇。第一部「何者でもない」から第三部「選べる国」までを収めた、約10万字の三部作・完結版。
青砥イサナ雨の日、旧友が中古車店へ置いていった車。そのトランクには三千万円があった。娘の進学費用に百万円だけ借りる――黒木修一の小さな言い訳が、家族と友人を巻き込んでいく。金で取り戻せるものと、取り戻せないものを描く完結ドラマ。
火坂レンジ家賃保証会社で督促を担当する榊美咲。二十五年前に亡くなった契約者の家賃が、今も払い続けられていた。滞納案件を追う仕事の中で、他人の事情と自分の壊れた家族に向き合っていく、完結した現代ミステリー。
汐庭つむぎ三十歳。営業を七年やって、辞めて、カウンター八席のラーメン屋を開いた。 開店初日、二十三人。二日目、五人。 二十三人目の客は、向かいの不動産屋の事務の女の人だった。スープを半分残して、一言。「しょっぱい」 彼女は、月曜と木曜に来る。毎回、一言だけ言う。褒めたことは、一度もない。 師匠は電話で言う。「客が来ないのは、味じゃない」 客が来ない理由を、ノートに書き出した。一つずつ潰す。潰しても、すぐには増えない。 半年で、四十八人。そして、彼女が週二回しか来なかった理由。
しゅう1新卒の保育士・青木航平は、嘘が下手だ。指導係の柚木先生は、嘘の名人だ。 「お母さん、もうすぐ来るよ」「雨は午後にやむよ」「すぐ治るよ」 ゆり組の十八人は、それで泣きやむ。 一人だけ、泣きやまない子がいる。結城ハル、四歳。時計が読める。 「うそ」 ハルは、大人の嘘を全部数える。父親の嘘だけは、数えない。 嘘が嫌いな新人と、嘘のプロと、嘘が通じない子の、四月から七月まで。
しゅう1県立高校の新聞部。企画は「七不思議」。 調べ始めた結城さやかは、名簿に一人分の空欄があるのを見つける。空欄の上に、消しゴムの跡。 用務員は言う。「四つ目までにしとけ」。国語の前田先生は言う。「私は六つしか知らない」。 七つを全部知った上で、八つ目を「聞いた」者は、翌週の月曜に転校する。転校先は誰も知らない。名簿から名前が消え、一週間で「そんな子いたっけ」になる。 さやかは、七つ目を知る前に、八つ目を聞いてしまった。 順番が逆なら、まだ残れる。
しゅう1昼休みだけ開く屋上で、隣のクラスの桜井ひなたに頼まれた。「告白の練習相手になって」。 返事は「考えさせて」で固定。台詞は毎日、紙で渡される。明日から、毎日。 台詞は日ごとに具体的になっていく。屋上で昼を食べる人。写真部。一年の体育祭。保健室。 友人の野田は言う。「それ、お前じゃないの」。俺は信じない。本番の相手は、俺じゃない。 練習は七月三日まで。本番は前夜祭の屋上。 桜井が紙を渡すとき、指が少しだけ触れる。それも練習のうちなのか、俺はまだ知らない。
しゅう1従業員四人の町工場。二代目の圭一が継いで二年、取引先は半分に減り、八月末に八百万の返済が迫っている。 五月、旋盤の上に、灰色の猫が寝ていた。左耳が欠けている。三回追い出しても戻ってくるので、職人頭が餌をやった。若い職人が「部長」と名前をつけた。 猫が苦手な圭一は、追い出さなかった。追い出せなかったのではなく、追い出さなかった。理由はまだわからない。 部長は、父の図面の上で寝る。銀行員のスーツに毛をつける。大口の客の車に乗り込む。雨の日に倉庫で鳴く。 そのたびに、なぜか、金と仕事が動く。 経理の由美は毎朝言う。「あと、六百万」
しゅう1引っ越しの荷物には、二種類ある。運ぶ荷物と、運べない荷物だ。 運べない荷物とは、重いとか壊れやすいとかではない。持ち主が、手放さない荷物のことだ。 班長は言う。「荷物は、持ち主の手で、最後の一個を運ばせろ」 作業員四年目の二階堂駿は、現場ごとに、その「最後の一個」に出会う。位牌。結婚式のアルバム。押し入れのギター。娘の描いた絵。 そして四月、六年帰っていない実家の引っ越しが、自分の会社に入る。 父は見積書の備考欄に、九文字だけ書いていた。「本棚一つ、運ばない。自分で運ぶ」
しゅう1隣の家の幼なじみ・白石七海は、中三の冬から「曜日ごとに別人」になった。 月曜は無口で地味。火曜はギャルで「ゆーと〜」。水曜は委員長で「三宅」。木曜は体育会系。金曜は文学少女で「三宅くん」。土曜は幼児化して「ゆうくん、遊ぼ」。そして日曜は、俺のことを知らない他人になる。 本人は「体質」と言う。友人の拓真は「演技だろ」と言う。俺は、どっちでもいいから、朝は普通に登校させてほしい。 七人の七海に振り回される十五日間。七人が全員、俺に言いたいことを一つずつ持っていることに、俺はまだ気づいていない。 作:星野ひかり
しゅう1午前二時十四分。国道沿いのコンビニに、毎晩、同じ客が来る。 灰色のジャンパーの老人は、牛乳を一本、小銭ぴったりで買って、何も言わずに帰る。三年間、毎晩。 夜勤の篠崎亮は、数えるのが得意で、人と話すのが苦手だ。だから最初は、数えるだけだった。二時十四分。小銭の枚数。小銭袋の残り。 数えているうちに、袋が空になる日と、その牛乳が廃番になる日が、同じ日だとわかる。 どちらも、亮にはどうにもできない。どうにもできないことを、亮は、店の三人で、どうにかしようとする。
しゅう1納棺の仕事を十四年している。湯灌は九十分。ドライアイスは一回三・五キロ。解剖のあとの遺体を縫うのは、この会社では自分だけがやる。 家族が見ている前で手を動かすのが仕事だと思っている。事故の遺体を縫っているあいだ、母親が最後まで見ていた日もあった。 十一月二日午前四時十二分、父が死んだ。翌日、自分で納棺すると言った。剃刀を持ったところで手が止まった。 十日後、他人の遺体を前にすると、手は普通に動いた。 全十章。
しゅう1【短編小説/科学幻想・家族小説】乗員が一人ずつ長期睡眠へ入る惑星調査船で、料理人の私は最後まで起きている。氷殻惑星の振動は、亡き父のレシピにある調理時間と同じ間隔を刻む。通信なのか、故障なのか、ただの偶然か。六人分の台所でスープを煮ながら、私は意味のないリズムを意味のないまま聞く。
月瀬 灯【短編小説/青春ミステリー】廃校前の文化祭で展示する制服が、毎夜一着ずつ別のサイズへ縫い直される。被服部の私は、卒業名簿に載らなかった生徒と、本人の同意なく残された服へ辿り着く。記憶することは所有することではない。最後の夏服に針を入れる手が、誰のための展示かを問い直す。
月瀬 灯【短編小説/心理ミステリー】雪の朝、名家の離れから仏像が消えた。庭に足跡はない。七十四歳の庭師・源造は、温水管と枝を伝えば雪へ触れずに渡れると知っていた。疑いは孫へ向くが、それこそ源造が望んだ筋書きだった。家も庭も家族も自分の手で整えたい男が、凍った池の前で制御を失う。
月瀬 灯【中編小説/家族ミステリー】集合住宅を撮る写真家・真帆は、十五年間空室のはずの四〇七号室で濡れた食器を見つける。そこには、失踪した姉のための席が用意されていた。姉は死んだのか、それとも生きて帰れないのか。父の支配と善意の家族ごっこが絡む部屋で、真帆は誰の許可も得ずに作られた「帰る場所」を撮る。
月瀬 灯【長編小説/近未来災害ミステリー】高潮のたび道路が運河へ変わる沿岸都市で、退去を拒む住民が相次いで転落死する。護岸技師の紗良が追う避難計画の欠陥は、彼女が敬愛した父の設計へ繋がっていた。迫る満潮のなか、父の名を守るか、生きている街を救うか。水際で家族の神話が崩れていく。
月瀬 灯